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音の記憶 後半

5月中旬、外出を控える日々が続きます。
不安はないわけではないけれど引きこもっていることに苦痛は感じていなかった。せっかくいただいた時間、本来取り組みたかったことをやろうと一番集中できる時間に和綿を紡ぐ。

朝の糸紡ぎが1日のうちで一番好きな時間かもしれません。外出する予定がない日、ほぼ毎日朝は糸を紡いでいます。羊毛、亜麻、そして和綿、なかなか進まないけれど一番好きなのが和綿です。ただ、ここのところその大好きな時間にずっと何かが足りないような気がしていました。


w葉4

5月20日、カッキーン、バシッ、川原から響く野球練習の音、これだ、いつもこの音を聞きながら紡いでいたのだ。
心地いい川風に運ばれてくるこの音がいつも寄り添うようにそこにあった。

甲子園の中止が決まったこの日、10分だったか、30分だったか分かりませんが川原からこの音が聞こえました。大勢ではなくおそらく2、3人くらいでしょう。
この日だけ響いたその音はそれ以来届いてきません。
それでも糸紡ぎは続けています。何かが足りない寂しさも球児の心の穴も一緒に紡ぎ続けます。



カッキーン、不意に浮かぶ景色は中学校の体育館の2階、緑のネット、相手の言うことを聞いてから、いってんぽおいて相槌を打ってくれる、決して怒らない穏やかな口調のTくん、眩しい西日、落ち着かない気まずい中学生同士の心地よい時間。あんなに楽しかったのに、どうして忘れてしまっていたのだろう。辛いことばかりではなかったはずの中学時代、消し去りたい恥ずかしいことも多くて思い出したくないと蓋をしていた。でも本当は違った。いや体育館での景色、振り返って美化されたのかもしれない。この出来事で彩られたのか。過去を変えたのか。変えられたのだろうか。
放課後、NちゃんとTくんと、どこにも属さない4人、(確かもう一人いたけれどまだ思い出せない)、あまり「つるまない4人」だから心地よかった。つかず離れず、嫌なことは聞かない、ちょっと変わっている方に分類される穏やかな4人はいつもなんとなく笑顔で、いい時間だった。



私はいつも野球部の音を聞いていました。
今は聞こえないけれどその音は体に刻まれています。


がんばれ




音の記憶 前半

2月下旬、朝、宅配便が届いた。身に覚えのない段ボールには確かにここの住所と名前、差出人は見知らぬ男性、でもしっかりと電話番号まで書いてある。
どうしますか、持ち帰りましょうかと訊いてくれたけれど、ひとまず受けとってから考える旨を伝えた。

何か頼んだ、いや、開けて大丈夫、何か忘れているのか、箱を開けずにしばらく考えた。よしと、深呼吸をしてから書いてある差出人のところへ電話をかけた。もしかしたらとても失礼かもしれないと思いながら、もしかしたら騙されてしまうかもしれないと恐れながら発信音のなる電話を握り耳を傾けていた。

「もしもしTさんのお電話でしょうか」
「はい」
「あの私、Tさんからお荷物が届いたのですけれど、こちらは・・・」
「はい、あの大丈夫です。確かに送りました。すみません突然、怪しいものではないんです。怖いですよね。でも悪いものではないので・・・あの、機織りをしてますよね」
「はい」
「以前テレビで見て素敵なことをされているなと思って、もしかしたら今、困っているんじゃないかと思って・・・あの、箱の中身はマスクです。たまたま医療関係の知り合いを通じてたくさん買って手元にあるので僕、花粉症なのでいつもたくさん買うんです。だから少し送ろうと思って」
「えっテレビでお知りになったんですか。いつですか。だってたくさんお持ちでも困らないのにご自身で使えるものを」
「気にしないでください。あの、他の方にも分けてあげたんです。だから使ってくださって大丈夫です」

驚いて嬉しくて動転して、お礼の言葉が見つからない。ただ、それにしてもテレビで知っただけの人へマスクを送る、そういう方もいるかもしれない。けれど、でも

「あの、もしかしてどこかでお会いしていますか」
「えっと、あの、はい。実はたまさんより一つ下で中学、高校と一緒でした。苗字が変わっているんですけれど、もう忘れていますよね」
「えっごめんなさい」

急いでダンボールの名前を確認する。そのおおらかな字はなんとなく知っているような気がするけれど、そしてこの気遣いのある話し方、なんとなくはじめてではないような、でもダメだ。思い出せない。顔が出てこない。

「あの本当に助かります。私ここで教室をしていて、こういう時ですからできる対策は全てして皆様に安心してご参加いただきたいので、マスクがあるとお忘れになった方にも差し上げられますし」
「あのお礼を、何か私からできないでしょうか」
「あの、これがお礼なんです」
「えっ?」
「実は、中学の時に虐められていたところを助けてもらったことがあって。もう昔の話ですから覚えてないですよね」

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 恥ずかしいのだが、小中学校の私は誰かの力になることを実感することが生きる支えとなっていた。そうすれば神様が見ていていつか困った時に助けてくれるかもしれない、奇跡が起きるかもしれないなどと、信じていた。結局は自分本意だ。罪悪感を拭うための偽善。虐められている子を救うことはできなかったと思う。でも声をかけていたことは覚えている。「つるむ」ことが苦手な私がすっと集団から離れてひとことふたこと話しかけても不自然ではなかった。普通の会話をしたり、何かを頼んだりきっとその程度のことだ。

「そして高校の時、僕とすれ違う時に『がんばれ』と声をかけてくれたんです。僕、その時ありがとうって言えなくて言えばよかったってずっと思っていて」

「がんばれ」これは私が中3のころ辛かった時にある2学年下の女子がかけてくれた言葉だった。家族と価値観があわず、先生とのやりとりでも誤解が生じ、それを諭したり解くことも「理屈っぽい」「言い訳」「反抗期」と言う言葉で論点がすり替えられる時代、同級生に相談するとかそういうことではなくて、そんなどうしようもない気分の時は野球部の練習を見ることが救いだった頃、睫毛の長いキレイな子だなと思っていたその女の子は廊下ですれ違いざま、こちらをむかずに私にだけ聞こえる声で「がんばれ」と呟きそのまま歩いて行った。
ありがとう。声が出なかった。本当に嬉しかったのにすぐに振り向く勇気すらなかった。そして結局ありがとうと言えなかった。上下関係が厳しい中学時代、下級生とそれほど仲良くできなかった私はそのままお礼を告げるのを諦めた。ただ私もいつか誰かに「がんばれ」と言おうと決めた。そのことは覚えている。




どうやらそうして声をかけたのがTさんだったらしい。Tさんはいつかその時のお礼がしたかったのだそう。そしてここまで話してくれたのにこの2つの出来事を私は全く思い出せない。
本当に申し訳なかった。
今は他県に住むTさんは3年前、山梨にいてテレビをつけると私が話しており偶然にもその番組では機織教室の問い合わせ先として住所が映し出された。それはオーガニックコットンの特集番組だった。あーここにいたと、なんて私らしいことをしているんだと思ったそうだ。相変わらずだたまさんらしいと。

話を聞きながら泪が溜まる。こんなことが本当にあるんだ。
2月はまだ山梨に感染者は出ていなかった。しかしながら教室のキャンセルが相次ぎ不安な気持ちになっていた。これからどうなるのだろう。
その暗い気持ちから始まるある朝、一つの宅配便がこんなにも晴れやかな暖かい気持ちにさせてくれた。

「思い出せなくて本当にごめんなさい。でも今日はとてもいい1日となりそうです。これから仕事頑張ります」
「僕もいい1日となりそうです。お電話ありがとうございました」

その時は記憶が蘇らないままマスクを大切に使うことを誓った。
そうして月日は流れた。

追悼


子どもの頃、テレビは8時までと決まっていた。
でも土曜だけは9時まで許された。

そういう家が多かった。

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8時だよ 全員集合!

誰よりもバカを演じ
貧乏だったり、一癖ある家族ばかりの
決して恵まれているとは言えない家庭、学校、社会を
笑いで包んでくれた。

どれだけの子供が笑い救われただろう。
どれだけの大人が慰められただろう。
くだらなくて何が悪い。
ちっとも平等ではない世の中で寂しさや怒りや憎しみで負けそうなとき
笑わせてくれた。

コメディアン 志村けん

本当にありがとうございました。

ドリフの早口言葉

カラスなぜなくの
カラスの勝手でしょ♪





2020前半


お世話になっております。

新たな教室スケジュールができましたので
添付します。

例年よりもあたたかいとはいえ朝は氷点下となる冬、
手仕事は冬向きという方もいらっしゃいますし
染めも冬の方が冴えるというお話をききます。




春に向けての準備とあれもこれも欲張り
結局すべて中途半端とならないようこころがけて。

七草がゆですね。

お写真をクリックしていただけますと拡大します。

2020前半

2020前半 染め
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植物染め教室 追記

P1010035.jpg


藍の生葉染め 未精練のシルクショール、夏の結婚式などにも活躍します。



じめじめとしてカタツムリにとっては心地いいけれど、人は不快になる陽気、梅雨のなか休みです。
実際は台風が発生しているそうなので、明日から雨模様を覚悟しています。

なんとなく懐かしいくらいのじめじめ感、まさにこのあたりの梅雨だと勝手にとらえソーダ水2本目を空けようとしています。
犬と猫はすこしおとなしくて、そこは楽です。

さて植物染めの教室ですが、来年の3月まで予定を組みました。
急遽決まった7月12日(金)東洋(日本)茜は残り1枠ですが、他は余裕があります。


2019植物染め教室 改訂


藍リネン肩

こちらはインド藍で染めたリネンショールです。こちらをご希望の方も大丈夫です。
染める布などにつきましてはお気軽にお問い合わせください


8月の藍は涼しい作業となります。


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